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■たばこと塩の博物館/普段なにげなく通り過ぎる博物館の中では

HP:http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html
MAP:mapion


僕の実家はタバコ屋だ。小さい頃は、そこで店番をしながら育った。そのタバコ屋は今でも現存していて、祖母が独りで守っている。

渋谷の公園通り、華やかな一角になぜか「たばこと塩の博物館」がある。そもそも、なぜたばこと塩なのかというと、この二つが「専売公社」によって管理運営されていたからで、ばあちゃんは今でもJTのことを専売公社と呼んでいる。

最近はディベロップメントの仕事にも関わったりしているので、この超一等地の、人があまり入っているようには見えない博物館を眺めながら、「もったいないなあ。もっといい施設利用があるだろうに」などと思って通り過ぎていた。が、ふらりと中に入って「そんなこと思ってごめんなさい」と、謝るハメになる。

最近改装された館内の一角に、1970年代の渋谷公園通りにあったタバコ屋の姿が再現されている。それを見て唖然とした。
「オレの家だ……」
そこにあったのは九州の僕の実家そのもの。僕が座っていた店先がそこにあった。あたかも自分の家が博物館に移設されているような感覚だった。
小学生の頃など、この店先にちょこんと座り「ハイライト」やら「チェリー」、「ピース」といった当時幅を利かせていた銘柄を、近所のおじさんたちに手渡していた風景が一気に蘇ってきた。

自動販売機が登場してから、「店先」の必然性はなくなり、それは街から姿を消していく。当時は店先に座っていると道を聞かれたり、いつもの人がいつもの時間にタバコを買っていったりしたものだが、そういった風景は失われてしまった。それはちょっとだけ残念だ。

タバコ屋のせがれにもかかわらず、僕はタバコを吸わない。ただその匂いはよく知っている。近所のおやじたちが買ってすぐに、店先でパッケージを開封していたからだ。なんで大人たちはこんなキッツイ匂いのものを好んで吸うのか理解に苦しんでいた。たばこと塩の博物館のショップにはなつかしい「しんせい」や「わかば」といった銘柄を売っていて、思わずそれを買ってみた。そこからは最近のタバコにはない、独特の匂いがした。なつかしい。製造年月日を見ると最近の日付だが自販機でこれらを見た記憶はない。店先での手渡しこそが似つかわしいタバコなんだろう。

ちょうど先週、故郷の店を守っていた90歳の祖母が骨折してしまい、店を閉じた。本来は長男の僕が継ぐところなのだろうが、今のところそういうわけにもいかない。こうして風景は博物館のなかのものになっていく。
もうひとつ、僕が気になったのは世界各国のタバコのパッケージデザインがすべて展示されていることだ。そのラインナップは膨大で、これだけのアーカイブがあれば充実したデザインブックができそうだ。また各国のロゴタイプやビジュアルにより世界観が見えてくる。
たばこと塩の博物館、僕は妙に楽しめた。



たばこと塩の博物館
住所:東京都渋谷区神南1-16-8
Tel:(03)3476-2041 Fax:(03)3476-5692
営業時間: 10時〜18時(入館は17時30分まで)




■立呑/なつかしい風景が新鮮に感じる

MAP:mapion


この日はなんだか、ひたすらなつかしい風景に出喰わす。
恵比寿駅西口のロータリーからちょっと入った商店街に、立ち飲み居酒屋がある。「立呑」と書かれた提灯が店頭にぶら下がっているので、たぶんそれが店の名前なのだと思う。入口はなんのデザインもないアルミサッシ。裸電球に明るく浮かび上がった店内には、カウンターが外ギリギリまで配置され、外からは客の背中が並んでいるのが見える。壁にはベタベタとメニューが貼られている。ぶっきらぼうなまでにさっぱりした店構えだ。
だけど、夕方、外がまだ薄明るいときからスーツ姿が立つ姿がガラス越しに並んでいるのが見える。煙がちょうどよく風景をくもらせ、電球の黄色い光に照らされてビールジョッキ が光っている。それが妙に気になって仕方がない……。そのときには、もうノックアウト。ガラリとそのアルミサッシのドアを開けてしまっている。

店は狭い。10坪にも満たない店内に「コ」の字型カウンターが配され、シビレ、ハツ、レバーなどの上質なモツ焼きを150円・180円で提供するほか、モツ煮込みを350円で提供している。それがうまい。いかにも「ヤンキー」っていう感じの顔と歳のあんちゃんが威勢よくて、ついつい景気よく注文してしまう。でも2000円にも満たなかった。営業時間は17時から23時まで。立っているわけだから、1時間もしないうちにきつくなってくる。ずるずると居座って深酒……とはならないわけで、僕にはちょうどいい。

僕がサラリーマンだった頃、終電間近まで仕事をして、神田駅の足下でいっぱいひっかけて電車に乗って帰路についた。滞在時間は30分にも満たないけど、あとは寝るだけ、という状況でのこの一杯は格別だった。そこで同僚たちとバカ話をして帰る。スーツが熱い、ネクタイが苦しい、飲み過ぎるとベルトまで苦しい。そのときはいい気持ちではなかったけれど、そのかわりそこから開放される瞬間、スイッチがカチッと切り替わって、それはなかなかいいものだ。

フリーランスになった今とは、またちがった味があって、ときどきそういう空気を吸いたくなる。

立呑

TEL 03-3791-4194
営業時間:17時−23時





 

博物館の中には懐かしい風景が広がる。
たばこと塩の博物館

たばこのパッケージの種類と、そのデザインの美しさを思い知った。
>たばこと塩の博物館

駅からすぐの商店街の中に「立呑」はある。
>立呑

店内は立呑のイメージをしっかり残しつつ、女性でも入れるような清潔なイメージ
>立呑

紙に書き込む形で注文する。
>立呑
ナビゲーター  馬場正尊(ババ マサタカ)

■ プロフィール
1968年佐賀県生まれ。雑誌『A』編集長、BABA ATELIER and Associates Ltd.主宰。
1994年早稲田大学大学院建築学科修了
2001年同大学建築学専攻博士課程満期退学
94〜2001年6月博報堂にて「世界都市博覧会」「東京モーターショー」などの都市計画、事業計画に携わる。現在、雑誌『A』編集長を務めると共に、設計活動、都市計画などを行う。近況に、沖縄チルドレンズミュージアム、アパレルショップ「FIRM ROOTS」、レゾナンスオフィスのインテリア設計、東京都心部の都市計画など。都市活性化のR-projectのディレクターとしても活動。

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